普通の主婦が調べるブログ

障害のある子を適当に育てる日記

「妄信 相模原障害者殺傷事件」(書籍)

相模原障害者殺傷事件から1年、この事件について障害児の母として自分なりに向き合っていこうと決意した。

ひとまず報道や書籍を辿ってみようと思い、読み進めている。

先月、発売と同時に購入したのがこの本。

「妄信 相模原障害者殺傷事件」朝日新聞取材班著(朝日新聞出版)

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事件の流れを追うには今のところ一番わかりやすい。

とはいえ、やはり被害者が匿名であることなどが影響しているのか、事件そのものの情報はトータルするとあまり多くはない。

はじめに
【第1部】 妄信
●第1章 軌跡
・山あいの地に
・金髪の男
・「教員志望」伴わぬ行動
・広がる入れ墨、やがて隠さず
・退院後も大麻やめられず
・施設に転職後、言動に変化
・「作戦内容」記し、永田町へ
・退院後「レベルMAX」に
・「昔に戻った」直後に事件
・「暴力団に狙われている」
(コラム)過熱する取材、悩みつつ

●第2章 沈黙する遺族 語った遺族
・心肺停止の「黒」が19人
・体育館に宿泊も
(コラム)証拠積み上げ
・抱っこせがむ娘
・懸命に生きてきたのに
・2人の実名を発表
・「お父さん」と何度も呼ばれ
(コラム)かけがえのない存在
・それぞれに「個性」「家族」
(コラム)奪われた人生に涙

●第3章 精神鑑定を経て起訴
・「完全な責任能力」と判断
責任能力、見極めに5カ月
(コラム)解けない「なぜ」
◎刑事責任能力を判断する際の着眼点と植松被告の言動
◎起訴内容の要旨
・「身勝手な考え」面会で語る
(コラム)植松被告と向き合って

●第4章 事件は防げなかったのか
措置入院中の対応「不十分」
・再発防止へ、厚労省が報告書
・「監視強化」の懸念も
・再発防止策に批判「障害者を危険視」
・神奈川県の検証「園の対応不十分」
・最重点課題は「情報共有」
(コラム)事件が突きつけたもの

●第5章 揺れるやまゆり園、建て替えをめぐって
・早々に建て替え方針
・相次ぐ反対の声
・「再生のシンボル」に
・事件から半年余り、園が会見
・家族会会長「事件がすべてを変えた」
・悼む思い、途切れず
(コラム)小さな声を集めて

【第2部】 ともに生きる
●第6章 事件が投げかけるもの
・世界から「障害者ヘイトNO」
・5年前、ノルウェーでも
・「心の闇」、社会の中から
・「冷め切った風潮、表面に」
・優生思想、連鎖する怖さ
・「優生」消えても、残る偏見

●第7章 差別の現場
・ゆがんだ優越感、弱者に不寛容
・ネットで先鋭化する意識
・追い詰められる「介助の現場」
・過酷な勤務、負の感情 
・絶えぬ傷、疲れ切る

●第8章 障害のある子を持つ家族の思い
・息子よ、そのままでいい
・「生きているだけで十分」
・誰にも弱い部分がある
・話せなくても感情は届く
・同じ「いのち」わかり合えたら
(コラム)記者もわかっていなかった

●第9章 ともに生きるとは
・共生の現場から
(コラム)重度障害者施設を訪ねて
・障害者差別、問い続け
バリアフリー化、契機となった闘争
・「当事者の立場で考える」とは
・「優しい社会」差別を覆い隠す
・老障介護、家族任せは限界
・「隔離」が理解を遠ざける
・想像する力、差別打ち破る
・一緒に育つ大切さ
・直接触れ合い、思いを発信
・神奈川県が「憲章」

●第10章 互いに頼れる社会に
・「依存しあえる社会」の模索を
・共生社会のあり方を議論
・障害者が狙われて
・「自立して強く」の考え、変えて
・生きる喜び、ロックに叫ぶ
・ぬくもり、あふれていたのに
・19の軌跡を詞に
・やまゆり園、ダンスで笑顔
(コラム)事件で立ち現れたのは

●補章 名を伏せて
・実名メッセージと写真募る
・匿名、悼まれる機会失った
・匿名発表で巻き起こった議論
・取材する側の思い
・「書いて人権を守る」
実名報道の三つの意味
(コラム)「あの子は家族のアイドルでした」

おわりに
事件前後の経緯

という目次を見てもわかるように、事件に関する話は第一部で、第二部は事件から派生した問題や、障害者に対するヘイト思想などに関する話だ。

本にできるような話題が少なすぎるのか、若手記者たちの感想がコラムとして載っていたが、こんなのでページ稼がないでよ…というような、まぁお決まりのコラムだった。「奪われた人生に涙」とか「遺族から追い返されて…」みたいな話とか。

 

加害者の植松聖について第一章と第三章で触れているが、とても少ない。それでもネットで流れている情報よりは事件に至るまでの加害者の行動が書かれているので、わかりやすかった。

 

衆議院議長宛てに書いた手紙も、テレビの報道では一部伏せられていた企業名(セブンイレブンフリーメイソン云々という妄想話)がそのまま掲載されている。

ちなみに、本の中では「人権上の配慮から一部省略」されている部分があるが、それは障害者に対する凄まじい偏見のある箇所だ。

例えば、

「障害者は人間としてではなく、動物として生活を過しております。車イスに縛られている気の毒な利用者も多く存在し、保護者が絶縁状態にあることも珍しくありません。」

という部分などが、本書では省略されている。

この部分はテレビの報道では報じられた。しかし、テレビは企業名は伏せた。

本書では酷い差別文章なので人権に配慮して伏せたが、(本人が陰謀に絡んでいると思っている)企業名は出した。

なんだか不思議な現象だ。

どちらにせよ植松聖という男が、かなり異常な妄想と差別思想に取り憑かれていたということはわかった。

 

また、本書では新聞社というメディアから見た「匿名報道」に対する問題にも多く触れている。

朝日新聞としては事件の性質上配慮が必要なのはわかっているが、今後もさまざまな事件を報道する際には「名前を出す方向でいきたい」という思いがあるようだった。

新聞記者の気持ちもわかるが、遺族が「障害者がいることを近所に知られたくない」という思いがあって伏せてきたということを知りながら、近所の人に取材して「あそこの家に障害者がいたなんて知らなかった」というコメントを取るとか、ちょっと酷いんじゃないの…と思ったり。

報道って難しい。

 

植松聖については精神鑑定で「完全な責任能力あり」と認定されているので、今後の裁判の行方が非常に気になるところ。

なぜ元職員がこんな事件を起こしたのか、という深いところを掘り下げてもらいたい。